刀剣研磨-研究室--->試し斬り-Part2
約直径3cmの真竹を斬ってみました。 竹は硬いというイメージがあるせいか、最初はかなり緊張しました。が、今回使用した刀はどれも折れるような心配のないものなので、安心して実験をできました。 ふと思ったのですが、「折れない」ということが刀にとって一番大事な要素なのかもしれません。どんなに切れる刀でも折れるようでは恐ろしくて使えないからです。 ○使用した刀 一、前回使用した末古刀 ・刃先の角度約30度のキーン刃 ・刃先の角度約30度の1000番砥石の寝刃 ・刃先の角度約15度〜20度キーン刃 二、昭和18年作軍刀 刃先角度30度キーン刃で平肉付く 三、昭和18年作軍刀1000番の砥石で寝刃で平肉付く ・改正にて寝刃 |
キーン刃は腕の毛を剃れるレベルに内雲り砥石で研いだもので、1000番の寝刃は指先で刃先を触ると良くきれそうだが毛は剃れない。改正の寝刃は指先で触るとさらにギザギザしているのがわかります。 |
実際に斬ってみると考えていたよりも竹はすんなりと切れます。 また、全ての刀でキーン刃、寝刃に関係なく切ることができました。このことから、刀というものは新聞紙一冊が切れるレベルの刃が付いていれば、あまりシビアに考えなくても刀としての機能は十分果たすという結論にたっしました。 ただし、切ったときの感触や音が微妙に違っており、刃先の角度が少なくキーン刃の方が”サクッ”という感じで音も小さく切れ味が良いような感じがしました。 それに、キーン刃は刃先の潰れも少なく刃持ちがよいようです。 |
かなり引き切りに近い切り方でも、左の写真のようなヒケ傷の角度なので、刃先がカミソリのようであってもノコギリ状であっても、叩き切る場合は関係ないようです。 |
○キーン刃対ギザギザ刃について結論 叩き斬るような場合は切れ味、刃持ち両面で寝刃合わせしたものよりキーン刃に軍配があがりました。 ノコギリのように刃を触れさせてから引いて斬る場合は寝刃合わせしたほうがひっかかる分、寝刃合わせした刀の切れます。しかも、叩き斬るような用途でもそこそこ切れます。 よく、寝刃合わせをしないと物が切れないような話を聞きますが、これはどうも迷信のようです。かといって、寝刃合わせをしてはいけないのか、というとそういうわけではありません。 キーン刃にすればよく切れるし、美的鑑賞にも堪えられるようになりますが、研磨に時間がかかります。寝刃合わせは切れ味はキーン刃にかなわないまでも、短時間で刃の復旧がはかれます。どちらが良いとか悪いの問題ではなく、ただの選択のようです。但し、刀の消耗という視点からみると寝刃合わせはできるだけしないほうがよいようです。 |
○寝刃合わせの方法 左の写真のように砥石を持ち、手首を固定し肘を支点にして刃先を軽く滑らせるにしてください。削るように力を入れたり、ゴシゴシ擦ると刃先に変な肉がついたり、消耗も多くなります。 それから、写真のものより小さい砥石のほうがよいかもしれません。 |
上記の実験から一ヶ月後に末古刀を研ぎ直し、さらにいろいろ斬ってみました。 もちろん、腕の毛が剃れるような状態にしてあります。 |
水に浸けた畳表の中に竹を入れてみました。 |
面白いようによく切れました。 そこで、調子に乗って下の写真のように竹を3本束ねて試しに斬ってみたら、こちらも切ることができました。 その後、一ヶ月外に放置してカラカラに乾いた竹も斬ってみたら、これも切れたのですが、やはり刃のダメージが多いようです。 そのあと、普通のゴミとして出すために細かく何度も竹を切っていたのですが、だんだん慣れてきたせいか一番最後に”サクン”という妙な軽い感触で切れるようになったのですが、この感触は病みつきになりそうです。 |
最後に新聞を切ってみたのですが、まだまだ切れます。しかし、当然ですが腕の毛は剃れなくなってました。 |
細切れになった残骸。 ご苦労様という感じです。 |
今回試し切りしていて、良い刀とはどういう刀かというイメージがだんだん形となってきました。良い刀の条件とは刃が出来るだけ硬く尚かつ欠けにくく、刀身は折れないのに曲がらないという能力が高いことにつきます。 ここまで考えて、ふと閃いたのですが、昔の刀の研ぎ心地が柔らかいのは、そういうふうに感じる地鉄でないと硬く欠けにくい刃を焼くことができなかったのではないだろうか?ということです。 そして、柔らかい地鉄を曲がりにくいように努力した結果、刃の広い丁字刃が生まれたり、地景、映り等の働きがうまれたのかもしれません。現代刀は地鉄は固く感じるのに刃先は妙に柔らかいものが多いです。たまに硬い刃があっても欠けやすかったりします。長くなりそうなので、このことに付いての考察は次回にいたします。 |