私の守り刀(愛刀)【2022年追記; 銃刀法違反につき廃棄】

 この短剣は私にとって刀の原点とよべる物です。
 刀が欲しいけど買えなかった若いときに(今だに買えない・・・・(T_T))、 半狂乱になりながら作りました。諸刃をキチンとした菱形にするのは非常に難しく、しかも、どうせ造るなら最高の材料でとATS-34を使ったら硬いのでかなり苦労しました。さらに白蝶貝を埋め込む為にフライス盤を使ってほじくったり、それを留める20金のピンを歯科技工士さんに造ってもらったりとかなり凝っています。

 ATS-34とは、元々ボーイング707機のベアリングに使われていた鋼をラブレスがナイフ鋼材として使用した154CMを基に日立金属工業が開発した鋼材です。耐蝕性、靭性、耐摩耗性、硬度などあらゆる面で優れた特性を示します。同じ硬度の普通の鋼に比べてかなり刃が欠けにくいし、表面だけに焼きをいれ中は焼きが入っていないので折れたりもしにくいような構造になっています。

 ところで刀とは似ても似つかない短剣をどうして刀の代わりとして造ったかというと、自分にとってイメージ的にはどちらも同じものだったからです。
 日本刀は人を殺傷する目的や戦いのために精錬された武器ですが、包丁や鉈のような道具とは異なり、頻繁に使わないというところに存在意義あると思います。
 私が日本刀を欲しいと思ったのは、人と人が刀を持ち戦うという極限状態が有るのだということを忘れない為に、そしてそれに挑む凛とした気持ちを思い起こすための象徴の意味合いで魅力を感じました。
 そして、そういう極限の象徴としての道具が美しいと感じ妙に惹きつけられたものです。

 この短剣は強靱なうえに、人を殺傷するのに高い能力があると思うのですが(刃をつければですが)、グリップに貝殻をはめたり、持ちやすさを犠牲にして造形にこだわったのも決して使われるべきでない象徴的な道具としたかったからです。そして刀と同じでこれを手にとったとき少しでも心に凛としたものが芽生えればということで造りました。
(市販のダガーも色々あったのですが大量生産のせいか造りが雑でただの人殺し道具の域を出ていませんでした。)
 平和な世の中にあって平和呆けせず、堕落しない為この短剣のような象徴が必要だと思います。そして、このようなものがいつまでも綺麗な状態に保てる世の中であってほしいとの祈りもこの短剣にこめました。
 
 刀に対し姿や肌がどうのこうの、刃紋がどうのと思うようになるにつれ刀に対する初心をついつい忘れがちになりますが、この短剣を眺めていると無我夢中で造った時の気持ちを思い出します。研ぎをやっていると刀にもいろいろあり、どんな物でも良くしてやろうという気持ちが薄らぐ場合がありますが、初心に帰ると頑張ろうという気持ちがわき起こります。
 刀の姿、肌、刃紋は刀鍛冶が自分の目指す能力の刀を造ろうとした結果の副産物であり、刀鍛冶の技能や精神性がそこに映りこんで美術品の品格を備えるわけですが、そこで技量の差や出来不出来というものが有るのはしかたが無いことですし有って当然なわけです。それでも、一生懸命にこれらを製作した刀鍛冶のことを思い、どんな刀でも見ていて尊厳を感じるような研ぎを目指したいと思います。(どうしようも無いものも有りますが・・・)
 ところで、よく刀に興味のない人に「刀のどこが良いの?」と聞かれることがありますが、「平和な世の中でつい陥りがちな心の堕落を防ぐ為のアイテム」と言ったら言い過ぎでしょうか?

○余談
 この短剣は現代の科学技術をフルに使っているだけ有って、錆びにくいし頑丈さでは日本刀に勝るかもしれませんが、表面全体が硬いので研ぐことを考えると写真のように地を蛤刃の逆のホローにして小刃をつけるような形にしか出来ません。究極の切れ味はやはり鋼のほうが上ですし、刀のように長い刃物で、ものを叩っ斬るのに適している綺麗な曲面の蛤刃にしてベタ研ぎができるようにするにはやはり昔ながらの日本刀が優れています。