研ぎの良し悪し |
研ぎのよしあしを知るには始めに地むらのあるなしを知るべし、あしきは必ずむらあり。 | ←考察 1 |
次にハバキ元より小しのぎ迄を見るにしのぎ直ぐならずして角立たぬは手の定まらぬなり。 | ←考察 2 |
次に刃肉を見るべし、本来むらありて刃ぶちに肉多くつきたるは之れの手の定まらぬなり。 | ←考察 3 |
つぎに砥目の残りたるかたあるは砥の数をはぶきたるなり。 | ←考察 4 |
それより地刃を見るに地黒みて刃の境くもりあるは合砥と地つや刃つやの定らずして其上ぬぐひのあしきなり。 | ←考察 5 |
又手の定まらざるもののとぎたるには刃にまがり出してそれが上に刃立たず、始よりひけて刃見ゆるなり云々。 | ←考察 6 |
研記より ◎昭和9年発行の「日本刀講座」に記載されていたものです。清麿の後援者であり武術家でもあった窪田清音が著したものですが、言い得て妙という感じです。少しづつ解説していきます。 |
刀剣研磨 日本堂 |
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考察 1 【研ぎのよしあしを知るには始めに地むらのあるなしを知るべし、あしきは必ずむらあり。】 上図のように刀をすかして見ると古い刀はたいがい程度の差はありますが凹凸があります。これを「地むら」と言います。 「あしきは必ずむらあり」と言ってますがかならずしも全てが悪いわけでなく仕方ないものもあります。部分的な錆を取れば当然その部分だけ少し凹みます。その周囲を広範囲に研ぎ上げれば凹凸を無くせますが古い刀などは新しい傷が出る可能性があるし、地にも薄い焼きが入っているので削ることによって肌合いが変わる可能性もあります。古い刀の見苦しくない程度の「地むら」は仕方ないと思います。 悪い「地むら」は研ぎ職人の明らかな不手際が原因で出来た凹凸です。研ぎ技術の未熟が原因となるものや、技術はあるのに乱暴な研ぎ方をしているもの、あるいは無気力になんとなく研ぎ上げてしまって出来た「地むら」があります。 新しく使用していない刀の面に凹凸がある場合は悪い研ぎで出来たものです。古い刀でもある程度は仕方ないのですが不自然な凹凸は不適切な研ぎによって出来た「地むら」の可能性があります。 他に不適切な曲がり直しによる「地むら」があります。曲がっているポイントから少しズレて直したものなどは曲がったところが凹んでおり、裏側は膨らんでいます。刀の曲がりは急角度にカクっと曲がっているものや緩やかなアールを描いて曲がるものなど刀の性質によってまちまちなので曲がりを直すのは大変な技術が必要です。素人の方が直したものはほとんどが蛇行するはめになります。酷いものは曲がり直しの為の曲げが原因で刀身の弾力無くなり板バネが鉛の板に変わってしまったかのような刀もあります。 そして、曲がり直しで出来た凹凸を削って直そうとして更に複雑な凹凸を作ってしまった困った刀などもあります。 |
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考察 2 【次にハバキ元より小しのぎ迄を見るにしのぎ直ぐならずして角立たぬは手の定まらぬなり。】 鎬の線を明瞭にし、刀の反りに沿った綺麗な曲線にするには、まず鎬地を平にしなければなりません。元から先にかけて表と裏が平行かつ対象となるようにし、それが日本刀の背骨となり平地を研ぐ時の基準となりす。 上図のように手が決まらずに研いだものは鎬の位置が地側に膨らみます。それを直すために平地を削って鎬を棟側に戻すという暴挙を行っている刀もよく見ます。そうすると、その部分だけ凹み考察 1 の地むらとなります。 鎬地を平にするのは鎬の角を明瞭にするためです。鎬地の面が甘いと鎬の角が凛とたちません。それを無理に立てる為に地を余分に削っているものがありますが、刀が痩せて見え美観を損ないます。それから、緊張感のある平らな鎬地の面は刀に折り目正しい雰囲気を与え、対象となる地の膨らみの柔らかさを強調します。 |
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