日本刀の仕上げ方について
日本刀の研ぎは切れるように刃を付けるだけでなく、使用に適した合理的な肉置きにして美しい形にすることを第一の目的としますが、鉄の表面の見た目も美しく仕上げます。
仕上げ法として江戸時代に普通に行われていた【 差し込み仕上げ 】と、江戸時代中期頃に少数の研師が行い、明治時代に本阿弥家で標準的な仕上げとして行っていらい現代の主流となった【 化粧仕上げ 】の2つの方法があります。
【 差し込み仕上げ 】
○概要
和紙に貼った小さな薄い砥石や、和紙に貼らない極小の薄い砥石を使い地と刃の表面を丁寧に磨きあげて、最後に砥石の粉を油に溶いたもので刀全体を磨き極僅かに残っている砥石の擦れ痕を消しダメ押し的な艶を適度に与えます。
刃文は焼き入れしたときの結晶構造の違いにより地とは違う光の反射の仕方をするので見えるようになります。通常、地にも薄く焼きが入っており肌模様や個性的な色合いになるので刃文や刃肌、刃色も地模様の一部分と言えます。
【 化粧仕上げ 】
○概要
砥石を駆使し刀の良い所を意図的に強調し欠点は隠すようにします。最後の拭いに使う油に溶いた磨き粉も差し込み仕上げより強力なものを使い、研師が意図する色合いや艶が出るように個別に調合します。
最後に和紙に貼った薄い砥石で刃文の形をなぞるように擦り、曇らせて刃を白く見えるようにします。
【 まとめ 】
差し込み仕上げは刀をありのままに磨き上げ日本刀の本質美を感じて頂けるようにするのに対し、 化粧仕上げは日本刀の本質美をいちど研師が吸い上げ、研師の技と感性により美しさと刀の個性を分かりやすく表現していくやり方です。
どちらが良いとか悪いとかはありません。差し込み仕上げは良い刀は仕上がりも良くなりますが、悪い刀は仕上がりもあまり良くならないし、欠点とかもよく見えます。でも、悪い刀でもそれなりに良い所もあり、そのへんは見る人の感性にお任せとなります。世の中にある刀は優良刀ばかりではありません。
化粧仕上げは、どのような刀でも美しく見えるようにします。人の情として、疲れの多い古名刀の朽ちた肌をあえて分かるようにする必要もないし、少しぐらい刃文に欠点があっても、あえてあからさまに見せなくてもよいのではないかと考えるのは当然です。悪い刀でも出来るだけ良く見えるようにして粗末にしてもらいたくないというのもあります。反面、本当の姿が分かりにくくなり人の眼を惑わす仕上げ方とも言えます。
日本刀の仕上げについて(PDFファイル 54kb)
刀剣研磨 日本堂