第1回 ; 日
本刀の刃について
自分が持っている包丁を目の細かい人造砥石まで研ぎ上げると、とてもよく切れるようになります。
切れ味の良し悪しを比較する方法は3cm四方の脱脂綿を5cmくらい重ね、研ぎ上がった包丁の刃で上から圧力をかけるとズブズブと沈み込んで脱脂綿が切れ
ます。包丁を引いたり押したりとかはしません。
その包丁を更に切れるようにしようと、目の細かい天然砥石で更に研いでから同じように脱脂綿で試してみると、更に切れるどころか逆に切れなくなってしま
いました。
天然砥石のほうが目が細かいし値段も10倍以上するのに役に立ちません。
さて、日本刀の場合はどうかと言うと、出来の良い古刀や新刀は天然砥石で研ぐと恐ろしいほどの鋭い刃先になります。
それに比べて現代刀のほとんどは包丁と同じで天然砥石よりも人造砥石で研いだほうが切れ味が良くなります。もちろん古刀や新刀の良刀を人造砥石で研いで
もよく切れる刃が付きますが、天然砥石で仕上げたものほどにはなりません。
現代刀でも折り返し鍛錬の時に炭素が抜け焼刃の眠いものは天然砥石でも甘切れするような鋭い刃は付きますが、こういう刀は刃先が潰れて痛みやすいので、
古刀や新刀の良刀とは別物です。
古刀や新刀でも、あまり出来の良くないものは人造砥石で仕上げた方がよく切れます。というか、切れるように調整できます。
但し、天然砥石で切れる刃が付くものが一番刃先が潰れず持続力もあります。
どんな日本刀でもよく切れると思っている方が多いですが、刀を研いでいる側から見れば一振り一振り全てが性質も性能も違います。
私の場合、研ぎ上げた時に缶コーヒー位の太さに丸めたコピー用紙を何かの上に立てて袈裟で斬れるレベルを最低基準にしてますが、刃先の研ぎ方は刃持ちを
考慮 にいれ調整しています。
抜刀用研磨は定期的に研ぐことにより、使った時の刃の状態を見ることができるので更に細かな調整を行うことができます。刃先を研ぐ時は単に切れるだけで
なく刃持ちも考慮に入れバランスよく研ぐことが大事なのですが、そのため、切れ味は刀によって若干変わります。刃持ちをよくするため切れ味を少しだけ犠牲
にしなければならないこともあります。
そして、どんなに最善をつくしても刃持ちの良さは刀の性能に依存しているので刀によって切れ味の持続力は変わります。
以前、刃引きをした刀で水に浸けた畳表を斬ることができました。このことから、あまり鋭い刃を付けなくても物を斬ることが可能だということがわかりま
す。ただ、こういう刀で物を斬ると刀身への負担が大きいので知らないうちに刀が曲がっていたりします。最悪、使っているうちに折れる可能性もあるので刃は
キチンと付けなければなりません。もちろん、こういう刀では丸めたコピー用紙の袈裟斬りなどはとうてい無理です。
丸めたコピー用紙の袈裟斬りについてですが、購入した
ばかりの化粧研ぎをしている刀(特に現代刀)では殆どが斬れないと思います。
自分の場合も半年前までは研磨している途中に確認した時は切れる刃になっていても刃紋が見える状態にし仕上げて確認したら切れ味が悪くなっていることが
時々あり 悩んでいました。丸めたコピー用紙はスパっと斬れません。
何度も竹とコピー用紙を交互に斬り試行錯誤した結果、研ぎ方を工夫することでこの難問を解決することができました。
次回、その過程で気づいたことや、なぜ古刀や新刀の良刀が天然砥石で鋭い刃がつくのにステンレス系包丁や現代刀ではダメなのか、などについて考えたこと
や推論を刃の構造の違いとあわせて説明したいと思います。
一つ訂正。現代刀の多くは天然砥石で鋭い刃が付きにくいと書きましたが、どんな刀でも砥石への圧力を小さくし角度を一定にして気の遠くなるほど時間をか
けて擦れば鋭い刃が付きます。現実的ではないですが・・・。
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