刀剣研磨-研究室--->鋩子の研ぎ方について

 私のような若輩者が基本以外の研ぎについて書くことを控えていたのですが、鋩子を変にしている刀を見るたびにショックをうけるので書こうと思いました。研ぎを仕事にしている方には当たり前の内容なのですが、一般の方が研ぐ場合参考にしてください。鋩子は一度変にするとなかなか直せないので大変なことです。
 三つ頭や横手を蹴っているものは、問題外なのですが左図の斜線の部分を多く削って薄くなる場合があります。
 このようになると切っ先が折れるような感じでとても見栄えが悪くなります。見栄えだけでなく実際に欠けやすくもなるでしょう。
 そして、このようになっている物は鋩子の肉の付き方も変になっております。



 
 昔、研ぎを始めたころ鋩子を研ぐ時は右手を固定し左手だけを動かし研ぐように教えられました。単純に考えると右手をできるだけ同じ位置にしておくように聞こえますが、厳密には左手を動かすとき右手を固定するというのが正確です。鋩子の砥石に当たる部分が変わるたびに右手の位置が変わるし、刀身の軸に対し回転させる動きもしますし、もちろん下図のように上下にも動かします。
 これも昔の話ですが、反りの少ない刀は鋩子が上手に研げるのに反りの大きい刀はいまいち納得いくようになりませんでした。原因は上図のように刀身全体の軸を中心にしての回転と下図の上下運動だけで研いでおりました。これをおこなうと上図左側のような砥石目となり、ともすれば一番最初に書いた斜線の部分を薄くしてしまう要因となってしまいます。
 




 では、キチンと研ぐにはどのような右手の動きをするかというと上図のように切っ先付近の刀身の軸を中心として回転させるような右手の動きが必要です。右手の動きだけ考えるとかなり複雑な動きになるのですが、実際は鋩子付近に意識を集中し上の左側の図ような砥石目になるように心がけて研げば右手は自然に上図のような動きをすることになります。
 要は右手を固定することにこだわり不適切な右手の動きをすると鋩子が変になるというごとです。右手を固定するのは左手を動かしているときのみで、鋩子の砥石に当たる場所が変わる時に右手も動かしているということを意識する必要があります。
 右手を固定と書きましたが、この原稿を書くときに気が付いた事が一つあります。上図のように右手で持つ所と左手を動かすときの支点がずれているので厳密にはほんの少し右手も動くのが本当なのですが微量の誤差なので無視しても良いのでしょう。(反りが大きいとこの誤差も無視できなくなり、私の場合はこの誤差を補正するため掟破りの右手も左手と平行に同量動かすような研ぎ方をする場合があります。←手を動かすというより体全体を動かすと言った方が正確か?自分でやっていてよくわかりません。)

 刀の研磨は反りが有るから造形的に複雑となり難しくなります。もし反りが無く、先幅と元幅が全く同じなら機械ででも簡単に研磨できるはずです。
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