刀剣研磨-研究室--->2、可哀想な刀

 日本刀は全体が錆びていても見違えるように綺麗になったりします。しかし中にはどうしても直らなかったり、「あと少しなのになあ」と思うものがあります。
それらは人為的な原因と思われるものが多く含まれ非常に残念です。 

1,窓開けによるもの
 全体が錆びた柔らかめの地鉄の末古刀と思われる脇差しでした。2カ所窓開けがしてあって、一見してチョット地肉を取りすぎてるのでは?と思ったのでその部分をほとんど研がずに錆びてるところだけ取りました。研ぎやすい地鉄なので簡単に平肉が綺麗な曲線に調整することが出来、これといったキズもなく喜んでいたのですが、研ぎ進めていくうちに窓開けしてる所がやはり凹んでます。それ以外は完璧なので、どうにも気になりチョット荒めの砥石に戻りなんとか目立たなくしようと頑張ったのですが多少目立たなくなった程度であきらめました。
 錆を取るときは荒い砥石で全て取らずに少し残して、細かい砥石に移行していく時に砥石目と一緒に錆びも取って行きます。そうすることにより出来るだけ刀が減らずにすみます。個人的な見解ですが、窓開けは肌を出す段階でも錆びが少し残っていても良いのではないかと思います。←窓開けは慎重に!

2,グラインダー、紙ヤスリで削った刀
 錆びを荒めの紙ヤスリでゴシゴシ擦った刀の研磨依頼がきました。割と綺麗なので簡単に研磨出来るだろうとお客さんは思っていたみたいですが、見てみると、鎬と峯周辺が角が取れており、鎬地も元々かもしれないが丸みを帯びてます。
 正直言ってかなり削って直しました。鎬や棟などの角が丸いと砥石目を消す為に垂直にあてるので、どんどん丸くなってしまいます。何処かで歯止めの研ぎをしておかないと刀か悪くなる一方です。鎬が丸いままごまかして仕上げるとその場はしのげるが、観賞に堪えられないし(形を気にしない人は別だが)、将来的に刀に悪影響を及ぼします。←自分で錆びを落とさないで下さい!
 
3,古刀に注意
 無銘だが備前の上工の作と思われる刀です。左図の様に鎬地に対し斜めに削っており、更に(持ち主が勝手にやったのだと思いますが)グラインダーで棟を1.5mm位掘り下げていたし、刃の方にもグラインダーの跡があり。さらに刃のラインが研ぎのせいで蛇みたいにのたうっています。
 最初、ただのボロ刀だと思い、この状態じゃどうしようもないので「適当に誤魔化しながら研いじゃえ」とガリガリやってたのですが、どうも研ぎ心地がよく、地鉄も独特の光と艶があるので「もしかしたら」ということで途中からかなり丁寧に根気よく研ぎました。研ぎ進めて行くうちに素晴らしい刃紋と地肌がでてきてびっくりです。仕上げてみたら、やはりかなり立派なものでした。でも鎬地の厚みは元から先にかけて一定でないし、刃も頑張って直したのですが僅かによれてるような気がします。これ以上直そうとすると余計刀にダメージを与えそうなので止めておいたのですが。
 長い年月を経た刀はいろんなことが有り、健全な状態で残すのは至難の技ということを身にしみて感じました。自分も柔らかい刀の削り過ぎには十分気をつけようと思います。
 後で知ったのですが、警察押収品の払い下げ物には鉄を調べる為、時々グラインダーの痕が有るようです。

4,その他
◇曲がった刀をポイントをはずして直して変にすると、元の曲がりを直すのも大変になります。勝手に直さないで出来るだけそのままにしておいて下さい。
 
◇曲がったまま研いで曲がりの部分をごまかそうとした物は二度と曲がりを直せません。

◇変な接着剤を使って作った鞘に入れていると深い錆びが発生して取り返しのつかないことになります。

◇ハバキを作るときは信頼出来るところに依頼すること。刃区のすぐ上が欠けたものをよく見ます。
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