刀剣研磨-研究室--->20、刀のネジレについて

★はじめに
 刀の捩れ(ネジレ)は美術工芸品、もしくは道具として考えた場合、本来決して有ってはならない欠陥です。ただし、歴史的に価値のあるものや著名な刀工の刀は学術的または骨董的価値があるので存在を許されると思いますし、鍛え肌や刃紋を観るだけならば鑑賞に耐えられます。しかし、極論かもしれませんが、こういう物が日本刀という美術工芸品といえるかどうかは甚だ疑問です。

 古刀や新刀の良刀は緊張感のある芯が通っており、ネジレや歪みがほとんどありません。そういう刀は曲がっても急角度に曲がらず緩いカーブで曲がり、復元力も強いです。そして、なによりも姿が美しいです。
 
★まず刀の捩れとはどういうものかを実例をあげて説明します。
位置D位置C位置B位置A
 上の写真は刃区の位置を垂直に固定し刃を上側にして撮った写真です。
刃区の10センチくらい上のほう(位置C)で差し表側に少しネジレがあり切っ先(位置D)付近では本来有るべき位置より2mm程刃先がずれています。
 更に悪いことにこの刀の場合、なかご(位置A-B)もネジレているので、刀を持つこの部分を垂直にして起点とすると切っ先のほうは更にネジレて刃先が刀の厚みの外にいってしまいます。

★なぜネジレがあると悪いのか
 上図のようにねじれた刀で物を斬ると片面に大きな力が加わり使っているうちに刀が曲がってきます。斬った感触もすっきりしません。
 あと、こういう刀を手にもっていると気持ち悪くなってきます。

★ネジレの原因
 1、焼き入れした時点でネジレが発生。(掲載写真の刀)
 2、打ちおろしの後の研ぎの悪さで発生。
 3、曲がりを直した時の不手際で発生。
 4、曲がりを直した時、不手際ではないが棟のほうだけ真っすぐになって刃側の曲がりがそのまま残りねじれたようになっている場合。

★ネジレた刀はどうすれば良いか。
 逆にねじれば、とりあえず直すことは可能です。(下の写真)
位置D位置C位置B位置A
 とりあえず直りますが、焼きを入れたときにできた鉄の組織に外力を加えて変形させるわけですから、多少弾力か弱くなるかもしれません。
 また、内部応力が残り衝撃を加えたりした場合や単に時間の経過だけで直したネジレが戻る場合があります。
 そもそも現代刀の打ちおろしでネジレのあるものは登録証を発行すべきではなく、世に出してはいけないと思います。
 原因3の不適切な曲がり直しで発生したネジレは刀の戻ろうとする力が加わり完全に元に戻ります。
 原因4で捩れるような刀はもともと刀の弾力が弱いのでこれもなおります。

★ネジレ直しを行う場合の注意点
 ネジレ直しには刃の欠け、ヒビ割れ、刃切れの発生というリスクが伴います。最悪の場合刀が折れる場合があります。歴史的価値のある古刀や新刀はネジレ直しを行うべきではありません。
 当方では、武道で刀を扱っている方で上記のリスクを理解できる方のみネジレの修正を行っております。
(武道で使う場合、ネジレの有る刀は百害あって一利なしなので、ダメもとで直すか、廃棄するか、売却するしかありません。もちろん、隠ぺいして売却というのは良くないことなのですべきではありません。)
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