刀剣研磨-研究室--->9、研磨料金について パート2


 先日、本当かどうかわかりませんが刀屋さんからの依頼の研賃の相場は\3,500か\4,000位ということを聞いて驚きました。金額に驚いたわけではなく上研ぎでないものは刀の状態を無視してこの値段じゃないと仕事が来ないということに、う〜んと唸ったわけです。
 この話の発端は私の通常料金が荒い砥石から研がなければならない場合寸単価\6,000と言ったことから、そんな高い値段じゃ仕事が来なくなるという話になったわけです。
 刀を売買する方にしてみれば相場の安い刀にお金をかけるのはナンセンスだし、出来るだけ安い値段で提供したいというのはよくわかります。ただ、真面目に研いだ場合、形の崩れている物を荒い砥石で全体をそこそこ整えると2〜3日かかり、そこから中名倉、細名倉砥石と進むわけであって、もともと良い研ぎがしてあって最初から中名倉、細名倉から取りかかれるものと同じ値段という方に無理があると思います。「無理を通せば道理が通らぬ」のとおり、その2〜3日のロス時間を埋めるため結局、不真面目(手抜き)な研ぎになるか、或いは今の自分のように一日12時間以上の労働とならざるおえません。若ければなんとかいけますが、有る程度年齢がいっていたら、まあ後者は不可能でしょう。

 最近、庶民的な値段の刀で鎬地が平らでなかったり、棟が三角でなかったり、地刃の肉置きが変なものが多くみられるのも頷けるような気がします。地刃の肉置きや棟は一般の人が見ても分からなかったり、気にならなかったりするかもしれませんが、鎬地は覗き込んで自分の目を写すと一目瞭然です。目が細くなったら鎬地に丸みがあるということです。「多少丸くたって気にならないしかまわない」と言う人がいるかもしれませんが、刀の冴えがなくなるだけでなく、刀の将来的な状態にとって決して良いことではありません。
 上図のように平らな物は全て同じ角度で砥石を当てても砥石目は消えますが、少しでも丸いと砥石も丸みに合わせて当てる羽目になります。特に角付近は圧力が高くなり細かな砥石でも角に砥石を当てればラインがダレ、刀が更に丸くなって行きます。鎬地が丸い、鎬が明瞭でない場合はたとえ荒い砥石を使わなくとも注意が必要です。もちろん錆びたものをこのように研いだ場合のダメージははかりしれません。一度こうしてしまうと元に戻すには最初からきちんと研ぐよりも倍以上刀が減るはめになるので錆びた刀の安研ぎは本当に注意すべきです。 地刃の整形にはリスクがつきまとうので必ずしも直すべきではない場合もありますが、鎬地と棟が変な物は将来への禍根を断つ為にも直す研ぎが必要かと思います。(※注-1)

 研磨料\4000でも元の研ぎが良ければ中名倉、細名倉からの研磨でも綺麗にしあがり問題ありません。更に状態が良ければ、邪道ですが刃艶、地艶、拭い、刃取りでそれなりに綺麗になるでしょう。この場合は当たり前ですがもっと安くしてもいいくらいです。
 ところが錆びた刀や形の変なものは、真面目に研ごうとするとやはり寸単価\6,000とか\8,000は必要です。
 刀屋さんが研ぎに出す場合は仕方ない?にしても、刀を買う場合はどのような研ぎがしてあるかや状態を十分に検分し、これからかかる費用も念頭に置いて購入しなければならないと思います。
 師匠がよく口にしていた、「どうせ良い研ぎをしても判りゃあしないんじゃから・・・・・。」などと言われないように研ぎの基本程度は判る目を一般の人も養う必要があります。

 ところで世間的な需要と供給の法則を無視して研賃を考えた場合、火災や盗難を防げる小さくともいいので一戸建てが必要になり、又、有ってはならないのですが賠償ということも考えるとそれなりの蓄えがなくてはなりません。そう考えると寸単価\5,000〜位は必要かもしれません。

 以上研ぎ賃について再度考えてみたことについて書きましたが、私のようにあまり高価でない刀(〜80万)をメインに研ぐ場合に適用します。高価な刀や名刀はしかるべき一流の先生に研ぎに出すべきです。ただ、廉価な刀でも良刀が沢山有り、安いというだけで粗雑に扱われてはたまりませんので若輩者ながら書いてみました。諸先輩方、先生方がこれを読んで生意気と思うかもしれませんが、波紋や肌の無い形が全てのナイフ作りから日本刀の研ぎの世界に入り、今はすっかり刀馬鹿なった人間の戯言として聞き流して下さい。いつかはお金のことなど心配しなくてもすむような一流の研師になれるように精進します。

(※注-1)鎬地は平らにと書きましたが、刀の厚さや鎬地の広さ、鎬の高さのかね合いによって、平らにすると刀がペラペラに見えて華奢な感じになる場合は若干丸みが有るほうが良いように思います。丸みといってもダレた丸みではなく線のしっかりしたものです。
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