刀剣研磨-研究室--->10、当装具について


 私は刀装具については全くと言って良いほど興味がありませんでした。 どんなに良い鍔を見せられても 「はあ?」 というだけで豚に真珠のことわざのとおりです。
 が、先日居合い用の刀の鍔を頼まれて買いにいったときに、私でも気軽に買えるねだんで目にとまったものがあり、むしょうに欲しくなって生まれて初めて鍔というものを 買ってみました。
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 これも猿猴捕月図なんでしょうか?
 刀装具の本に載っている金家の猿猴捕月図は木の上の猿が水の中の月を片手で取ろうとしている図です。そして透かし彫りでもありません。 それに比べてこのお猿さんは欲張りにも両手で大きなお月さんを抱え込んだ大胆な透かし彫りです。(←猿猴抱月図?) お猿さんの顔は理知的ですが人間くさくも獣くさくもなく変わった顔です。 イメージ的には「もののけ姫」に出てきた山の守り神の「ショウジョウ」に木魂の表情をミックスさせたような感じでしょうか? なんか、この顔を見てると思わず ニヤッ としてしまいます。

 この鍔を買ったおかげで、本棚の飾りとなっていた刀装具の本を見直してみますと、どれも技術だけでなく素晴らしいデザインセンスだと改めて感じました。 いったいどうやったら こういうものを思い付くのだろうか? と感心してしまいます。図柄もさることながら絶妙なバランス感覚には目を見張るものがあります。 大量生産の工業製品に目が慣れた現代人は綺麗な直線や曲線が当たり前になりバランス感覚はつい均等な配置に重点が置かれがちで面積的な力量の釣り合いをとる場合が多いように思います。 でも、書道の文字や鍔の文様は幾何学的なものとは違う次元のエネルギーバランスがあります。 そういえば刀の姿も幾何学的な数式に当てはまらない微妙なバランス感覚のうえに成り立つデザインですね。

 鍔を眺めながら、このようなものを生み出し大事に保存している日本人を誇りに思い、かつ自分たちがこれらを生み出した人々の子孫であることを嬉しく思います。

追記
 この猿の顔を見ているとなんとなく作者の顔に似ているのではと思えるような生々しさがあります。こうして改めてこの鍔を眺めていると時間を飛び越えた何百年前が妙に身近に感じられるから不思議です。
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